なぜサザエさんを見てしまうのか

なぜ、日本人のみんなはサザエさんを見てしまうのか。それは、人は無意識に理想のキャラが登場する作品に惹かれるからです。
マンガやアニメも、キャラクタービジネスの一種です。登場人物の人気はそのまま作品全体の魅力に直結します。

当たり障りのない内容の『サザエさん』がなぜか 国民的アニメとして成功しているのは、メインターゲットである子どもの視聴者と、その両親・祖父母世代にそれぞれアバターが存在しているからです。

ワカメちゃんのポジションが絶妙なのは、一応は姉と兄がいる末っ子であると同時に、タラちゃんという事実上の弟がいることです。つまり、視聴者の「末っ子として甘えたい」願望と「お姉ちゃんになりたい」願望の両方を満たすアバターなのです。やんちゃ坊主のカツオは、男の子の視聴者から共感を得られるアバターです。サザエさん世代の視聴者にとっては、夫(マスオさん)は早稲田卒のエリートサラリーマンで、実家住まいで(しかも世田谷区内の庭付き一戸建て!)、子育てを両親に手伝ってもらえて、おまけに専業主婦というのは究極の贅沢であり、野望でしょ。フネさん世代の視聴者にとっても、タラちゃんのように可愛い孫と暮らすことは最高の夢であり、幸せです。

磯野家は一見平凡に見えて、なにげに「全員が勝ち組」なのです!要するに、磯野家の人々がジャパニーズドリームを体現してさえいれば、個々のエピソードはどうでもいいのです。初期設定が重要です。

しっかり分析していくと、『サザエさん』が半世紀に渡って高視聴率を保ってきた理由が良く分かります。「キャラクタービジネスとして」比類なき完成度に達しています。

もちろん、あれが限界というわけではなく、たとえば波平さんの髪がフサフサだったら中高年男性の視聴者はもっと増えるはずです。何より今の時代は専業主婦よりキャリア志向が主流ですのでサザエさんをキャリアウーマンにして育児との両立を描いた方が、絶対に視聴者の共感を得られるはずです。そこが、最近『サザエさん』の視聴率が落ちてきている原因でしょう。